真右エ門の 魅力と歴史
有田の伝統工芸家 ・ 陶芸家に聞く、 真右エ門の魅力と歴史
今宵の舞台は、粋な飲食店が軒を連ねる大阪・北新地にある人気寿司店「寿司やまわき」。 こちらのお店に、華やかな料理と肩を並べて異彩を放つ器があると聞きお邪魔させて頂いた。ここでは、有田焼のブランドである「真右エ門窯」のブランドコンセプトを手がける馬場泰嘉氏が「これほどまでに器の扱いを熟知した上で盛り付けをされるお店はなかなかない」と太鼓判を押すほど、真右エ門窯の器の魅力を最大限に引き出しているお店なのだとか。 真右エ門窯の器の魅力とは一体どのようなものなのであろうか。また変幻の釉薬とは。 真右エ門窯の歴史を紐解きながらその魅力の真相に迫ってみた。
取材 ・ 写真 | 高木皓平
伝統工芸 ・ 有田の真右エ門窯とは
真右エ門窯は、 有田焼の伝統を受け継ぎながら、 現代の感性に合わせた磁器を制作している。 有田焼は、 日本で初めて作られた磁器であり、17 世紀にはヨーロッパの王侯貴族にも愛された『白い金』と呼ばれるほどの高級品であった。真右エ門窯は、その白い磁肌に色彩豊かな『辰砂』や日本史と深い結びつきのある『油滴天目』 などの釉薬を施すことで、宝石や宇宙というテーマをうまく表現している。その美しさは、本邦だけに留まらずアジアをはじめ、欧米諸国でも高く評価されている。
有田焼 ・ 真右エ門の魅力
馬場氏によると、ブランドコンセプトは 『色彩の美境』 。色彩豊かな『釉薬』の作品を制作することで、見る人の心に感動や喜びを届けることを目指している。馬場泰嘉 (ばば ・ ひろかず)
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
有田焼の窯元役員であり、 風姿花伝を研究する陶芸家。日本の伝統と現代の感性を融合した作品を制作。TED×Saikaiへの出演をはじめ、ディーン・フジオカ氏主演ドラマへの美術提供など、多彩な活動を展開する。
@aritayaki_sinemon
@aritayaki_baba
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
有田焼の窯元役員であり、 風姿花伝を研究する陶芸家。日本の伝統と現代の感性を融合した作品を制作。TED×Saikaiへの出演をはじめ、ディーン・フジオカ氏主演ドラマへの美術提供など、多彩な活動を展開する。
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陶芸家・真右エ門としての歩み・歴史
真右エ門窯は、初代真右衛門 ( 馬場真一郎 ) が1972年に創業した窯元であり、現在は二代目、馬場九洲夫氏が当主を務める。九洲夫氏は有田焼の名工として知られる初代真右衛門 ( 真一郎氏 ) からの陶芸の手ほどきを受け、陶芸界の中でも最高難易度の陶技とされる油滴天目や辰砂釉等の釉薬を独自に研究し、技術や秘伝を現代に受け継いでいる。油滴状の模様が浮かび上がる美しい釉『輝く宇宙の黒』とも称される油滴天目、そして、銅を含有する釉薬を超高温で還元焼成させることで発色されるルビーのような赤色、こと『宝石紅』。これらの釉薬は、温度と時間、湿度や酸素量等の微妙な調整が必須であり、没となる確率が非常に高い技法ではあるものの、九洲夫氏のその飽くなき難易度への挑戦の結果、見事に成功へと導いたのである。
九洲夫氏の努力と功績は大きく評価され、2012年に日展特選を受賞する。
真右エ門窯の歴史を語る上で外せない色 「辰砂」
真右エ門窯は、有田焼の伝統を受け継ぎながら、現代の感性に合わせた磁器を制作しており、その中でも、特に人気が高いのが辰砂(しんしゃ)と呼ばれる釉薬である。辰砂とは、銅を原料とした赤色の釉薬で、日本では真右エ門窯が辰砂の第一人者と言われている。その色は宝石紅やルビー紅とも呼ばれ、まるで宝石のように美しく輝く。辰砂は、高温で焼くことで色が変化するため、同じものでも一つ一つ表情が異なる。まさに辰砂の作品は世界に一つだけのオリジナルと言えよう。真右エ門窯の宝石のような美しさを纏う新マグカップ辰砂
馬場九洲夫と馬場泰嘉のものづくり
馬場九洲夫氏は、陶芸界の巨匠・板谷波山に影響を受け、色彩豊かな釉薬を使って自然界の美しさや多様性を表現することに情熱を注いでいる。また、日展特選や現代工芸理事長賞など数々の賞を受賞し、日本の陶芸界に多大な影響を与えた人物である。九洲夫氏の長男の泰嘉氏は、豊嶋彌左衞門に師事し、風姿花伝を研究した後、奥川俊右エ門に師事。真右エ門窯のExecutive Creative Directorとしてブランド作りと経営に携わりながら、抹茶碗やぐい呑、花器等の作品を制作している。また泰嘉氏は、TED Saikai出演や京都新聞チャリティ美術作品展への寄贈など、幅広い活動を展開。
2人の共通点としては、真右エ門窯の伝統を守りつつ新しい色彩や形態に挑戦していること、陶芸界に対する努力と情熱とが挙げられる。
相違点としては、師事した陶芸家や作品のジャンルが異なっている。泰嘉氏によると「真右エ門窯は50年の歴史がありますが、今もなお進化し続けています。」とのこと。その背景には、九洲夫氏と泰嘉氏のものづくりへの姿勢が色鮮やかに反映されている。2人の作風の違いを楽しめるのも陶芸の世界の奥深い魅力である。
辰砂の高度な技が生まれた際に閃いた、 最高難度の技法『銀河』
真右エ門窯は、有田焼の伝統と革新を追求する窯元である。その中でも、『銀河』という釉薬は、真右エ門窯 の代表作とも言える。銀河とは、油滴天目に青釉を加えて完成させた、夏の夜空を彷彿させる美しい釉薬。 銀河は、陶芸界で最も権威ある賞のうちの一つ『日展特選』を受賞した馬場九洲夫氏が独自に開発した 技法で、生地の違いや焼成の違いによって半ば偶然に生まれる油滴天目を進化させた独自の色彩の釉薬だ。 銀河は、マグカップや湯呑み、コーヒーカップなど様々な器に施されていて、本金や本白金を用いてさら に豪華に仕上げた『星天』と呼ばれる作品もある。どの器も一つ一つが異なる表情を持ち、見る角度や光の 加減によって色や輝きが変化する。銀河は、真右エ門窯の技術と感性が結晶した芸術品です。真右エ門窯の 銀河は、日本だけでなく海外でも高く評価されており、京都の『小倉山で出会う色彩展』や京都新聞チャリティ美術作品展への寄贈など、幅広い活動を展開中だ。銀河は、日本の陶芸界に多大な影響を与えており、 有田焼の新たな可能性を示す作品として、その美しさと独創性が、見る人を魅了し続ける。
幽玄と世界感
真右エ門窯の支配人であり、Executive Creative Director でもある馬場泰嘉氏は、陶芸家としても活躍しています。氏の作品は、日本の伝統的な美意識である幽玄を表現している。幽玄とは、具体的には答えられない感覚の世界であり、色彩や形態を組み合わせて、空気感や雰囲気で感じさせるものだ。 氏は花入『大宇宙』、抹茶碗『三彩盌』などの美術品や、手作りカップ&ソーサーなどの作品を制作しており、涼雲や白雪といった名前が付けられている。氏の作品は、様々な作風があるが、色彩の調和にこだわっている。氏の作品は、見る人に余白や想像力を与えます。泰嘉氏は、真右エ門窯の経営にも携わりながら、陶芸 界に対する情熱と努力を続けています。TED Saikai 出演や京都新聞チャリティ美術作品展への寄贈など、幅広い活動を展開しています。彼は父である九洲夫氏に協力し、真右エ門窯と有田焼の発展に努めている。氏の作品は、日本の伝統的な美意識を現代的な感性で表現した真右エ門窯の技術と感性が結晶した芸術品だ。